社会人ドクターの課程で博士号を取得するまで

社会人ドクターとして走り切るには、覚悟が必要

私は大学院にて修士課程を修了後、新卒で企業に入社しました。研究系サラリーマンとしては、一般的なルートでしょう。

そして、入社10年目からは社会人博士課程、いわゆる社会人ドクターに通い、3年後に博士号を取得しました。

学位取得を目指していた同士もいましたが、みんな挫折してしまいました。

博士号取得に関するブログ記事は数あれど、みなさん実名で書いているせいか、優等生的なものばかり。劣等生が逃げ切るテクニックはあまり書かれていないのでは、と感じました。

ならば私が!ということでリアルな現実をまとめてみました。

社会人ドクターになるための社内でのテクニック

学位取りたがりキャラになる

まずは、博士課程に通う前の話ですね。日頃から、上司や同僚へ博士号を取りたいことをアピールしましょう。

年間計画の面談とかで、今後の目標とか聞かれるじゃないですか。その際、博士号を取りたいことを伝えましょう。「いつか取りたいですね」ではなく、「近い将来に是非取得したい」、と言っときましょう。

「博士号、とらせるなら、アイツかな」と印象付けること。

過去の事例を集める

すでに社会人ドクターとして学位を取得していた方がいたら、無理やりにでも機会を作って話を聞きに行きましょう。他社の方であっても話を聞いておくと良いですね。

社内で進学について説得する際、「誰々先輩や同業他社の彼は、出張費を援助してくれていたみたいですよー」と交渉するネタにもなります。

社内情勢を見極めよう

社内情勢を味方につけるようにしましょう。ある時は「若手はぜひ博士号をとってほしいね」だったり、ある時は「会社は学校じゃねえんだよ」だったり。

これは部門長の好みの問題でもあるので、まるで振り子のように行ったり来たりします。ってことは、タイミングを逃すと次のチャンスは5年、10年後かもしれません。

できたら・いつか博士号とりたいね、程度の思いの方はここでチャンスを逃します。

社内情勢の振り子

社会人博士課程は、入ったもの勝ちです。「若手はぜひ博士号をとってほしいね」のタイミングで入学してしまいましょう。その後に情勢が変わっても、追い出されることはありません。

ただ、「アイツは誰の許可をとって、課程に通ってんだ?」と思われるので、入学許可証は捨てないように。上司が変わるたびに許可証を提出させられることも…。

研究室選びの前に、目的を忘れるな

博士号の取得難易度は、大学院、専攻、そして指導教員により大きく異なります。大学の格や学部の難易度とは全く関係ありません。

まずは学位を取得させてくれる先生・研究室を探しましょう。なにかと融通が利く、母校の研究室が第一候補でしょうか。え?喧嘩別れした?次が共同研究先などでしょうか。

そして指導教員には、3年や2年で学位取得を考えていることを”必ず”伝えましょう。某京都方面では、5年・6年で取るのがあたりまえ、という専攻もあります。学位取得が目的であれば、こういった専攻は避けましょう。

審査対象となる論文をチェックせよ

専攻の審査対象としてカウントされるジャーナルを調べること。Excelなどでリストアップされているかもしれません。研究室のプライドや自主規制もあるので、ここはキチンと調べましょう。

とある医学博士の課程では、学内の身内ジャーナル誌に1報の掲載で要件クリアだったりします。更に凄いところだと、セカンドオーサーで1報あれば良いなんてところも。査読の洗礼を受けずに学位が取れてしまう?!

また某大学院では、過去に投稿したジャーナルが3つ以上あれば、博士論文としてまとめることで学位をとれるコースもあります。すでに実績があれば、論文博士よりも良いかもしれません。

研究室の義務を調べよ

研究室のDuty、つまり義務の仕事を調べましょう。毎週のゼミと宿題に追われ、その合間に研究をして挫折、という例を見ました。。社会人なのに毎週研究室のゼミに参加!は難しい。また、実験を手伝ってくれる学生やスタッフがいるのか確認しましょう

専攻の入学要件を調べる

入学試験の要件を調べましょう。要件として、社会人での研究歴がX年必要、というものもありますね。また社会人枠で入った場合の利点も調べましょう。

学費の支出方法を考える

学費は自分で出すスタンスで臨もう。会社や家族から支援があるかもしれませんが、まずは期待しない。でも、もらえるものがあれば全部ありがたく貰う、というスタンスはいかがでしょうか。大学院に通う旅費については会社と要相談。出張扱いにしてもらえるかも?

支援者には博士号取得時にお礼すること。学位取得後に博士論文の冊子を渡すなど。いまどきお金を渡す必要はないと思うが、教授に雰囲気をよく聞くこと。「医学博士 謝礼金」でググればなにかヒントがあるかも。

研究テーマを考える

研究テーマは、業務と無関係のものでもよいかもしれない。社外秘や特許出願など制約がないため論文が出しやすい。まぁ、業務と関係あってもよいかな。

入学後のテクニック

晴れて大学院生となったあなた、浮かれてはいけません。早急に博士号取得の最低要件を満たしましょう

私は入学直後のガイダンスにて、「ここにいる学生のうち、半数は学位を取得できません」と喝を入れられました。

原因はシンプル、投稿論文がアクセプトされないこと。

目的と手段を間違えないこと

あなたの目的は、世紀の大発見をすることでもなければ、有名ジャーナルに通すことではありません。本業の合間に学位を取得することです。頑張ってもジャーナルに載らなければ、入学も無価値です。

私のオススメは、まず専攻の修了要件を満たす通しやすいジャーナルに投稿すること。そのためには、小さな山でもいいから新しく自分で作って、ヒョイと登る。

特許を書いたことがある方ならわかるかと思うけれど、手持ちのネタから「解決するべき課題」を都合のいいように作り、それを手持ちのネタで乗り越える、という自ら問題を見つけて解決策を考える作戦がオススメです。自作自演作戦と名付けています。

論文を書く順序

論文は日本語で書いてから英訳しましょう。よく巷で、言語が違えばロジックの立て方が異なる!英語で最初から書くのが良い!などと言われるが、まったくの無駄です。

たとえ英語が得意であってもどうせ長文を書く機会なんてない。だいたい、英語のロジックなんて知らないし。日本語で下書きを書いたほうがロジックの抜けが分かりやすいでしょう。

また自腹であっても、お金を払って英文校正チェックをかけましょう。なんなら、最初から日本語の論文を丸投げして英文にしてもらうほうがいい。社会人ドクターにとって最も重要な「時間」を買うことができます。オーバードクターになったら学費やらで数十万が吹っ飛ぶことを考えると安いものです。

投稿した論文は最後までケアして、必ず通す

投稿後、査読の返事が遅かったら催促しましょう。こっちは学位がかかっているんだからとメールすれば、速攻で査読が終わります。みんな締め切りまでほったらかしているんですね。自分に査読が回ってくる番になると、その気持ちがよくわかります。

リバイスのご指摘にはマジ感謝。真摯に全項目対応しましょう。素人が安易に反論すると、速攻でリジェクトをくらいます。

私自身の事例

入学前から実験をして、フライングダッシュを決めた。しかし、データがしょぼすぎて査読が通らない通らない。課程3年になってもアクセプトされた論文なし。。

だんだん大学院に行く時間がなくなり、研究室の実験機器が使えない!さすがにまずいと思う。

急遽、器具を自作し、誰でも作れる自作の機器はニーズがあるんだ!という課題を設定、新規性はありますよねといった流れで論文を投稿。

「アイデアは苦し紛れの思いつき」、という本田宗一郎の言葉に救われました。

正直いって進歩性はなし。でも、自ら問題を見つけて解決策を考える、という博士に必要なスキルってコレなのかと思いました。

その後は毎朝5時に起きて、喫茶店で論文を書いてから出社する生活が続きました。結局、私はファースト2報、セカンド1報をもって博士論文を提出し、学位を授与されました。内容はかなり微妙でしたが、投稿論文数で押し切った感があります。

指導教員には本当に迷惑をかけましたし、感謝しています。

専攻修了の最低要件は、ファーストオーサー英文1報でしたが、その条件すら満たしたのは同期30人のうち私ともうひとりだけ。

評論家みたいに研究室やアカデミック界を批判していた方たちは、修了式には居ませんでした。また中間発表会で物凄い物量のデータを示して圧倒していた方もいましたが、彼も修了できず。。のちに、全部OB・OGのデータだったと判明。

大学院生としての利点

Amazon Prime Studentは、4年間有効なので、大学院に入学してメールアドレスをもらったら、すぐに登録しよう。

当時の携帯電話の学割は、2年間有効でした。学生証を入手してすぐに加入、そして2年生の3月に更新処理をして、更に2年間延長できました。

githubも学生は無料。クックパッドも無料。EndNoteは学割版が買えました。

博士号を取得して得たもの

社会人ドクターの課程で身に付けた「自ら問題を設定して解決策を考える」クセは、今の事業でも役立っています。また、「アイデアは苦し紛れの思いつき」という、ある意味開き直りは、その後の新規事業提案でも活かせています。「ガムシャラに頑張ればなんとかなる」という経験も、過酷でしたが一回は体験しても良いものかもしれません。

学位を取得すると、将来的に大学教授になる道も開けてきます。企業に属しながらも、共同研究先の大学機関の客員教授になる例は多々あります。

以上

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